おれが産まれたために母は死んだ。
おれと父は長年に渡りずっといがみ合い、争い続けた。
そしてそのせいでおれと父が愛する母を死に追いやってしまったとしたら、こんな人生に一体何の意味があるのだろう。

何もない。
苦しみしかなかった。
罪しかなかった。
そして他者への憎しみしかなかった。

その時おれはもうこんな人生はこりごりだと思った。
人間なんてもうこりごりだと思った。
死にたかった。
でも死ねなかった。
ここでおれが死ねば、母がおれを何十年も必死で育ててくれたことも、生きていくことをおれに託して亡くなっていった意味も、母自身が生きてきた意味もすべてなくなってしまう。
それだけはできなかった。
だから死ねなかった。

おれは死にたくても死ねない。
だからもう音もなく消えたかった。
跡形もなく消え去りたかった。

自分なんてぶっ壊れろと思った。
自分の人生なんてぶっ壊れてしまえと思った。
そして、そのまま自分のすべてがこの世から、この宇宙から一片も残さずに消え去ることしかもう望みはなかった。
その時のおれは、もしそれで自分がこの世から跡形もなく消えても本望だっただろう。
その時おれは、おれ自身を闇の中へと追い詰めていた。

その頃のおれの記憶には、ただ自分の部屋の白い壁の、その白さだけが強くある。
毎日毎晩ただ白い壁を見ていた。
見ているうちにその真っ白い色の中にただ自分が吸い込まれていく気がした。

わからなかった。
おれがこの世に本当に生きていていいのか。
どうすればいいのか。

すべてのものに何の意味もなかった。
自分にさえも。

自分はきっとその時、虚無というものの真っただ中にいたのだ。